出産

陣痛室へ入ると、ちょうど夜が明けてきて窓の外も明るくよい景色。ここまで来たらあと少しだー!と気持ちも明るくなった。いい陣痛来てるからあと3時間ほどで産まれるのでは?と助産師さんの予想。
親が持ってきたパンとおにぎりで腹ごしらえ。眠れなかったぶん、食べて体力をつけておかないといけない。その後出てきた朝食はほとんど手をつけられなかった。食べやすいものが一番です。
その頃はトイレに行き、歯まで磨く余裕があった。助産師さんに「あれ、余裕ですねぇ…さっきはひどそうだったのに」と言われて「おかげさまで」なんて言ってたが、よくよく考えたら余裕なんかあっちゃいけなかったのだ。安心したからか、疲れたからか、「いい陣痛」が遠のいてしまったのだ。監視装置を付けても、病室にいた時のような強い陣痛があまり来ない。

でも、私としては身体が楽になったしあまり深刻に考えず、痛みをのがしつつのんびりしていた。そこへ看護学生さんの実習に協力してほしいとお願いがあって、OKした。分娩も立ち会うらしいけど、まあいいでしょう。まめまめしくお世話したり世間話でリラックスさせてくれたり、いい子でした。
次にまた、朝の診察。隣の診察室で内診なんだけど、ひどかった…!子宮口の確認って、陣痛がきて痛い最中にされるんだけど、助産師さんと違って先生のやり方は容赦ない。痛い最中に手でさらにぐいっとこじ開けられてるようなねじ込まれてるような、とにかく痛くてわめきまくってた。これを、若い先生と主治医の2人続けてやられたからたまったもんじゃない。結果やっぱり7cm、赤ちゃんは順調に下りてきてるとのこと。産科医ってすごいなぁ、泣きわめかれるの慣れてるんだろうなぁ…。
陣痛室に戻って、助産師さんと学生さんにフットバスをしてもらった。心身をリラックスさせて陣痛を進める効果があるそうで、おとといから痛みに耐えて汗だくで足が臭くなってたから嬉しかった。精油の香りを嗅ぐと、確かに子宮がきゅーっとしてきた。オレンジ系の精油だったみたい。

そういえば助産師さん予測の時間はとっくに過ぎてたけど、あまり気にしなかった。お昼になり午後になり、今度は痛みとともにだんだんお尻の方に圧迫感が。「いきみたくなる」ってこういうことか。夫に握りこぶしで肛門のあたりを押してもらったら、「すごい力だ」と。押してる最中手がぶるぶる震えるくらいで、子宮が赤ちゃんを押し出す力って本当に半端ない。いきみ感は辛いけど、痛みそのものは夜中に比べてマシというか、継続時間も少し短めになっていたと思う。
次に、左下腹が痛みだした。なんていうか陣痛とは違う表面的な痛みで、これもその部分が張るかららしいのだけど、ずーっと痛いからこれも辛かった。立っても座っても何してても痛い。助産師さんにほぐしてもらうと楽になったけどすぐまた張って痛くなる。

そんなこんなで夕方。5時前になると、助産師さんも交替の準備に入り、学生さんも帰りのあいさつに来たりする。2人とも立ち会うはずだったのに、帰ってしまうとなると急に心細く寂しくなった。あれ、なんでまだ産まれないんだろう?とはじめて疑問に思った。そこへ主治医の先生が来て恐怖の内診。いまだに朝のまま子宮口が開いてないと知らされる。愕然。
「本当ならもうとっくに産まれているはずです」と言われ、とうとう微弱陣痛の判定を下された。陣痛促進剤の点滴を勧められ、説明を聞くと受けた方がよいようなので承諾書にサインした。このままだと赤ちゃんに負担がかかると言われたらやるしかない。でも、ここまで頑張ったのにショックだった。睡眠全くとれなかったし、長すぎて身体が疲れてしまったんだろうな。もう1晩かかるとなったら今度こそ倒れてしまうかもしれないしな。

横になり、点滴開始。「早ければ2〜3分で効いてきます」と言われたとおり、3分ほどできた。強烈な波が。強い痛み+とほうもないいきみ感。ベッドから飛び起きてわめきちらしました。なんて言ったか覚えてないけど、出る!とか叫んだ気がする。実際、いきんでうんちが出てしまったと思った。母が「いきんでいいよ!」とか訳わからんこと言うので余計パニックになり、半泣きで助産師さんを呼んでもらった。当然まだいきんでは駄目なので、いきみのがしの「ふーっ、ウン!」という呼吸を教えてもらう。でもあまりに強烈ないきみ感なのでのがせる自信がなく、泣きながら助産師さんにしばらくついててもらった。ふーっ、ウン、ふーっ、ウン…って一点を凝視しながら必死で呼吸を続け、何度か波を乗り切った。でもどうしても身体が勝手にいきんでしまい、そのたびに羊水がもれるのが分かる。和らげるために肛門をテニスボールで圧迫すると、その下で赤ちゃんがぐにぐに動いてるのが分かるのだ。肛門の中にいるわけじゃないけど、位置的には本当そんな感じ。すぐそこまで下りてきてるわけだ。本には「排便するときのようないきみたい感じ」とか書いてあるけど、比較にならないですよ。排便のは自分の意志で我慢できるじゃん。このいきみ逃しの時間が全編通して一番きつかった。途中点滴のペースを上げられ、「鬼!」と思った。

15分ほどしてまた先生が内診に来た。わめきながら内診に耐えてると、先生は「…うん、いいでしょう。全開!」と言ってくれ、とうとう分娩室に行くことになった。ああ、長かった。本当に長かった。
点滴でこんなにあっさりケリがつくなら、さっさとしてくれれば…と思わなくもなかったけど、ギリギリまで自分の力で産めるように待っててくれたんだろうな。

分娩室の準備の間、促進剤恐怖のあまりそばにいた助産師さんに「この点滴つけたまま行くんですか?」と聞いてへんな顔された。よく考えたら何もなくても念のため点滴はされるんだし、分娩中に陣痛弱くなったらそれこそ一大事だもんね。

隣の分娩室に入った。ふつうの診察室のような部屋の真ん中に分娩台が2つ。間にはカーテンがあるけど、隣で同時進行されてたら嫌だろうなぁ。1人だけで助かった。台に上がり、身体を固定されたり監視装置つけられたりした。ああ、さんざんつけられた監視装置もこれで最後だ!やったぁ。そうやってあれこれ観察してたら「冷静ですねぇ!」と助産師さんたちに感心された。なんか、ここまでが苦しく長すぎたから、分娩台に乗れたことが嬉しくて仕方ないのだ。やっと来れたーーー!って感じ。
助産師さんは夜の担当に交替したけど、学生さんは残って立ち会ってくれることになった。そして、「あと2人見学させてもいいですか?」と聞かれたのでOKした。1人も3人も一緒だ。赤ちゃんの性別をまだ聞いてないことを言うと、「じゃ、一番最初に見てくださいね」と介添役の助産師さん。

周りで数人の助産師さんが忙しくしてる中、痛みの波がきてまたふーっ、ふーっとしてたら、学生さんが一緒に呼吸をしてくれて、それに合わせることができた。これ、一緒にやってくれる人がいるのといないのと大違いです。準備ができたらしく、次の波がきたらいきんでいいよ、と言われる。これまでさんざん「いきんじゃだめ」と言われてきたので、にわかに信じがたく「いきんでいいんですかっ」と聞き返してしまった。いいよーと言われたので、うううーんと思いきり力を入れてみた。「はい、次はバーを握って足を踏みしめて」と言われて、いわゆる本にのってるやり方でいきみ開始。2回大きく深呼吸して、1回大きく吸って、息を止めて思い切りいきむ。バーを引き、足を踏みしめ、背中をまるめて足元を覗き込むように。「目を開けて!」と言われてあわてて目を開けた。目つぶってると力が分散するそうだ。そうやっていきんだ2回目、下方向に力を入れてみると「そうそう!上手よ!その角度!」と言われ、どうやらコツがつかめたみたい。もろに排便するときの角度でした。なんとなくここかなーと思うよりも下方向。1回の波で2〜3回いきんで、だいぶ赤ちゃんは下りてきたみたい。陣痛の合間には夫にお茶を飲ませてもらった。「うんちは出てないから安心していいよ」と言ってくれたけど、実はちょっと出てたのではないかと今でも思ってます。

次の波でまた2回ほどいきみ、出口付近に何か挟まってる感じが強くなった。「もう頭見えてますよ!」と学生さんに言われたけど、まだどんな状態か自分では分からない。そのまんま、頭が挟まってたわけなのだけど。こうなると出口が痛くて異物感が辛いので、さらにいきんで出してしまいたいのだけど、「陣痛の間でないといきんでも下りてきませんよ」と止められる。学生さんがうちわで扇いでくれてたけど、「寒いんで」と言ってやめてもらう。すんません。寒がりなんで、ぺらぺらの分娩衣の上にパーカー着てました。足元はハイソックスでした。

次の波でまた2回いきんで休むと、「あと1回で出そうなんだけど、いけない?」と言われがんばってもう1回。ううぅ〜んといきんでると、見えました。衝撃映像。自分の足の間から、濡れて髪の毛が張り付いた、丸い赤ちゃんの頭が半分出ているのが。びっくりです。何がびっくりって、本当にお腹の中に人間がいたんだぁというのが…。
そして、するっと身体が出て、助産師さんが受け止めて。直後にふぎゃっふぎゃっと声を出して。ああ、何もされなくても自分で声出すんだぁ…とぼんやり見てると、ぱぱぱぱっと助産師さんたちが口と鼻の羊水を吸い出して、それから本格的に産声をあげた。「おめでとうございます、女の子ですよ!」と言われたら、一気に我に返って涙がどっと出てきた。辛かったー、終わったー、良かったー、女の子だったのかー、うそやろー等々。そういえば性別を聞かなかったのは、そのほうが最後楽しみで頑張れるかもしれないと思ったからなんだけど、陣痛の間は一切性別のことを考えなかった。思い出す余裕もなかった。
夫は立ち会ったのだけど、疲れ切ってたせいかその場ではあまり感動した様子がなかった。あとでじわじわ押し寄せてきたようです。

へその緒を切られ、少し血をふいて私の胸の上に乗せられカンガルーケア。この世にこんなに温かくて柔らかな存在があったなんて。じんわりと、幸せなひとときでした。眩しいのいか目をつぶってたけど、手でひさしを作ってあげるとほんのり目を開けてくれた。ようこそ、です。

カンガルーケアは早々に切り上げられ、赤ちゃんは身体をきれいにして計測、私は処置を受けた。胎盤が出たあと「見せてください」と言うと、きれいに血を洗ったあとで見せてくれた。へんな顔されなかったから、けっこう見たがる人多いのかも。胎盤は結構大きく、へその緒と卵膜が少し残っていた。助産師さんが言うには私のは肉厚な胎盤で、へその緒も太かったから赤ちゃんにたくさん栄養行ってたでしょう、と。人により厚さはまちまちらしい。裏側とかけっこう生々しかったから、一緒に見た夫が倒れなくてよかった。倒れるだんなさんいるらしい。

取り上げたのは助産師さんで産科医の先生はそばで待機してたんだけど、終わったら診察しに来た。どうやら少しだけ前側に裂けたらしく、そこを縫うことに。助産師さんが裂けないように介助してくれてるのは分かったんだけど、裂けてたのかぁ…。気づかんかった。ふつう後ろに裂けるというから、カレンデュラオイルでマッサージとかしてたんだけど、まさか前側に行くとは。オイルのおかげで後ろが無事だったのかもしれん。縫われてる間、隣で着替えをしている赤ちゃんを眺めて、処置のことは気にしないようにした。学生さんたちが「目はママ似かなぁ」なんて言ってる。場も和んだから、学生さん立ち会いOKして良かったなぁと思った。にこにこして「感動しました」と言ってくれたし。最後に、分娩直後の貴重な子宮だから触らせてあげてほしいと助産師さんが言うので、学生さんたちにお腹の上から子宮を触ってもらった。これが痛いんだ。自分でも触ったけど、驚くほど小さく縮んでた。日に日に縮んで、10日ほどでお腹の上から触れなくなるそうだ。
処置のあと、赤ちゃんは廊下で待ってる母に顔を見せに連れていかれ、夫も一旦外に出た。夕食時間になってたらしく、そのまま分娩台で食事をとることに…。いいのだろうか。そういえば痛みもスッキリ消えて元気なんだけど、まだ動いてはダメらしいので。

助産師さんも分娩室を出、戻ってきた赤ちゃんを眺めながら1人でゆったり食事をとった。陣痛始まって以来のまともな食事。ペロリと完食でした。人生で幸せな食事のベスト3に入るかも。
夫は一旦出たあとなんとなく戻ってきそびれたようで、だいぶ経ってから来た。呼び戻してビデオ撮影とかしてもらえばよかったと後で思った。食事のあと分娩台の上ではじめての授乳をし、車椅子で病室に戻った。赤ちゃんも一緒。初車椅子で非常に興奮したのだけど、分娩室から一番近い病室だったため1分もかからなかった、残念。病室の入り口で親子3人で記念撮影してもらいました。両親とも疲れ果てた顔してるけど、大事な1枚です。

病室は昨日まで苦しんでたのがうそのようにきれいに片づけられていた。まず2時間ほどベッドで安静にして、それから助産師さんにつきそってもらってトイレに行く。急に血圧下がって倒れる場合があるらしい。でも点滴のせいか1時間もせずにトイレに行きたくなり、ナースコールで呼んでドアの前で待っててもらってトイレをした。まぁびっくり、血の海でした。それでも出血は少なく済んだらしく、気分も悪くならなかったので以後普通に歩きまわることができた。

ここから休む間もなくぶっつけ本番の育児のはじまりです。

ちなみに戻ってきた母子手帳を見ると、分娩所要時間なんと35時間。どの時点から計算されたのか分からないけど、5分間隔になったあたりかな?長時間よくがんばりましたね、なんてコメント書かれて嬉しいような悔しいような悲しいような。分娩室に入ってからだけなら安産だったのになぁ。助産師さんいわく、促進剤には赤ちゃんを押し出す力はないから、最後はお母さんのがんばりが効きましたよーと。レッスンで培った筋力やら柔軟性が生きたとしたら、ここかなぁ。陣痛を耐える体力と産む体力は別物だったなーというのが個人的な感想です。

安産お守り一式持って行ったんだけど、お札を飲むとかチラリとも思い出さず。思い出してもやらなかったと思うけど。やはりどうしても、神様同士で「ここは私が」「いや、ワシが」「拙者こそ」「おまいはすっこんでろ」とやってる絵を想像してしまうのであります。

ま、無事産まれたからよし!長い文章読んでくださってありがとうございました。